12/1

「師走だ」と言っている人を2人みた。そういえば12月ばかりが旧暦で呼ばれている気がする。夜が長くなってきたことを実感した頃に「もう長月ですね」と言ってみてもいい。

最近読んだ本で新月のことを「月が黒い」と表現していていいねと思った、ということを、月のことを書きながら思い出した。

12/2

並木のある歩道に大量の黄色い葉が敷かれていた。まだ水分を含んでいる落ち葉特有の変な匂いがする。そのせいなのかどうなのかわからないが、この落ち葉たちはまだ完全には死んでいない感じがして、踏んで歩くのがすこしわるいことのような気持ちがした。

12/3

街中で全力疾走をしている人がいた。なんとなく想像してみたが、自分の友人や知人がこんなふうに全力で走っているところを見たことがない。走るというけっこう原始的な行為が非日常的なものに見えるのは、すこし不思議な気がした。

東の方向にある遠くの建物が夕日を反射して1つだけ真っ赤だった。

12/4

「おめめ擦らないでね」という親子の会話が聞こえてきた。「おめめ」は目、「おてて」は手なのに、「おみみ」が「み」じゃないのはそういえばすこし変かもしれない。

12/5

ぜんぜん連絡をとっていなかった友人から連絡がきた。人生を共有していない時間が長いせいか、半分くらい知らない人みたいな気持ちがある。その感じをどうにか埋められないかなと思って、先週撮った近すぎるスズメの写真と、ワニの心臓の写真を送った。

12/6

クリスマスマーケットをやっているところがある、と美容師さんが教えてくれたので行ってみたら「ハイカロリーフェス」と書いてあっておもしろかった。

12/7

「おしゃれの店」と書かれた古いお店があった。何の店かはわからなかったが、概念を売っているみたいでいいなと思った。

お皿を新しくしてみたら、思ったよりうれしい気持ちになった。

12/8

「ペンキ塗りたて」という貼り紙を見た。言葉としては知っているが、現実で見たのははじめてな気がした。この貼り紙はあくまで塗装の進捗を教えてくれているだけであって、実はなにも禁止や直接の注意をしていない、とも読める。

12/9

見るという動作をするとき、それをしている自覚はあくまで「見る」であって、「目にする」をしている感覚はない。なので、なにか見たことを記録するときには「見た」と書くほうが自分の経験に忠実に書けている感じがする。

12/10

「大きいクッキー BIG COOKIE」という商品が売っていた。わかりやすくておもしろかった。

12/11

「趣味・特技」という項目を書くのに迷った。それを趣味だと思って書いているのか、特技だと思っているのかで話が変わってくる。すこし考えて「念入りに見ること」と書いた。

12/12

みかんを食べた。皮がすごく剥きやすくて、人間用の果物という感じがした。

強くて冷たい風を正面から顔に受けて、息が止まるかと思った。自分の中で今日からを冬とした。

12/13

午前中、博物館に行った。特別展をやっていない期間だからか人がほとんどおらず、空調と自分の足音しか聴こえないくらい静かだった。しばらく歩いたあと、庭が見える明るい休憩スペースですこし作業をした。

12/14

息が白かった。冬だけは喫煙者でなくても息が見えるようになるというのはおもしろいシステムだと思う。

12/15

「運動禁止」と書かれた看板があった。当然これはあらゆる位置変化を禁止しているわけではないが、どれくらいの動きからが「運動」として禁止されるのだろうと思った。ラジオ体操はたぶんだめな気がする。準備運動はむずかしいラインかもしれない。

12/16

人生ではじめてトークイベントというものに行った。たくさん心や頭に留めておきたいことがあったのでたくさんメモをしていたら、5000文字くらいになってしまった。参加の仕方をかなりまちがえている気がする。

12/17

『檸檬』を久しぶりに読んだ。「えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた」という書き出しの一文がほんとうにいい。心を圧えつけるものというのはだいたい正体不明で、得体の知れないそれを「得体が知れない」と書いているところがすごくいい。

12/18

雲が1個もないくらいに晴れていた。視界の端で歩道橋を渡っている人がいて、空を歩いているように見えなくもなかった。

12/19

広場にサンタの像がたくさんあった。そのなかの1人がおもちゃの袋を踏み台にしてギターを弾いていて楽しそうだった。そういうサンタがいてもいいか、と思ったのと、誰かにあげるおもちゃだったらあんまり踏まないほうがいいかもしれない。

12/20

風船が道に落ちていた。膨らんでいるということは、すこし前まで誰かのものだった可能性が高い。

12/21

地面の半分くらいが赤いモミジの葉で埋まっていた。花札みたいだ、と思った。

12/22

今日から6月まで毎日すこしずつ日が長くなり続けるということを想像して、けっこううれしい気持ちになった。

柚子をお風呂に入れたけどあんまりわからなかった。

12/23

言葉やそれに相当する合図がもし無かったら、紅葉する木々を見たときに感じる美しさとか風の心地よさはまったく別の形をしていたかもしれない、それはたぶん感覚や経験のまとまり方がちがっていくことによって、みたいなことを考えた。

12/24

家に帰ったら、買った覚えのあるかわいい靴が届いていた。

12/25

ケーキを食べたほうがよさそうな雰囲気があったので念のため食べた。甘いもの耐性があまり高くないので、ケーキというのはいつも量が多いなと思う。ビュッフェとかにあるちいさいケーキ、お店でも売ってくれたらすこしうれしい。

12/26

帰り道に月を見て、こんなに下半分だったっけと思った。月齢を調べてみるとあさってが上弦のようで、上なのだか下なのだかややこしくておもしろい。